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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)297号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第三号証及び第五号証によれば、本願発明は冷蔵庫に関するものであつて、外箱及び区画壁の前面に露が付着するのを防止するため、外箱の前縁、及び庫内を複数室に区画する区画壁の前面に、冷却サイクルの高温冷媒を通す放熱管を配設し、しかもそのような構造を採用したにもかかわらず、容易に製造できるようにすることを目的とするものであつて(本願発明の出願公告公報第一欄第二四行ないし第二欄第四行)、その明細書の詳細な説明には、一実施例として、別紙図面(一)に基づき、次のような説明が記載されていることが認められる。

「1は外箱2と内箱3と断熱材4とより形成された断熱箱体で、外箱2の端部には二重フランジ5、6が形成されており、このフランジ5、6間に内箱3のフランジ7が嵌め込まれスプリング片8により仮り止めされている。この時外箱2の二重フランジ5、6間には放熱管9が設けられ内箱3の側面に形成された溝10部分の前端部に形成した透孔11、すなわちフランジ7を有する内箱3の一側壁の前端部より外方へ突出する延出部12を有しており、端部は外箱2に形成された透孔13より外部へ突出している。前記内箱3の透孔11はシール部材14によりシールされている。このようにして外箱2と内箱3により密閉室が形成されている。15、16は内箱3及び外箱2に対接される治具である。この時前記放熱管9の延出部12は内箱治具15の挿脱に邪魔にならないよう内箱治具15の摺動方向に延出しており、この状態でもつて断熱材4を発泡形成して断熱箱体1を形成する。このようにして形成された断熱箱体1の内箱3の溝10には区画壁17の両側縁を挿入して庫内を二室A、Bに区画形成し、その後、放熱管9の延出部12を区画壁17の前面に配設するように折り曲げて仕切板18により断熱箱体1に固着している。また、前記放熱管の延出部12は前記区画壁17の一側方(第5図中右側)より延出されている。この区画壁17内には冷却サイクルの蒸発器19が設けられ、この蒸発器19によつて冷却された空気をフアンにて送り二室A、Bを冷凍室及び冷蔵室とするものである。さらに前記外箱2の二重フランジ5、6に設けられた放熱管9は電動圧縮機20、凝縮機21、ドライヤー22、キヤピラリー23、蒸発器19とよりなる冷却サイクルの凝縮機21の下流側に接続されており、高温冷媒が流通する。

上述の構造によれば凝縮機21に連結された放熱管9により外箱2と内箱3の周縁が加熱されヒータを用いることなく発汗を防止できるとともに、区画壁17の前面に設ける放熱管9の延出部12は断熱材4の発泡時には治具15の挿脱を可能ならしめ、かつ区画壁17を挿入するとき前方へ飛び出しているので区画壁17を挿入の邪魔にならずのちに区画壁17へ折り曲げて取付けるので断熱材4の発泡作業及び区画壁17の挿入が容易に行なえる。」(同公報第二欄第六行ないし第三欄第二〇行)。

右認定事実によれば、本願発明の冷蔵庫は、電気ヒータを用いずに外箱の前縁及び区画壁の前面の結露を防止できるので、節電が可能である上、放熱管9の延出部が断熱材中に埋設されることなく配設されているため、放熱作用が低下せず延出部の熱を有効に利用でき、さらに、延出部が区画壁17の一側方から延出して区画壁の前面に配設されるため、仕切板と区画壁の間に確実に配設されるのみならず、放熱管と延出部とを別配管にしていないから両者の溶接部分からの冷媒漏れなどの支障を生ずるおそれがないなどの作用効果を奏するものと認められる。

2 審決が、本願第一発明においては前面配設要件(すなわち放熱管の延出部を区画壁の前面に配設すること)が発明の構成に欠くことができない事項であるのに、第一引用例にはその記載がないことを看過していることは、当事者間に争いがない。

この点について被告は、前面配設要件は、審決の相違点<4>に関する「前者(本願第一発明)は、区画壁の前面に、放熱管の延出部を覆う仕切板を設けたのに対し、後者(第一引用例)はその点明記していない」点で相違するとの記載(審決(甲第一号証)第三丁表第一六行ないし第一八行)によつて間接的に取り上げられており、したがつてこれに対する判断も示されていることになると主張する。

しかしながら、相違点<4>についての審決の記載が、専ら区画壁の前面に配設される仕切板(前面板)の構成及び作用効果に関するものであることは文理上明らかであつて、そこに、間接的にもせよ前面配設要件についての記載がなされていると解することはできない。

もつとも、前記一致点に係る前面配設要件と相違点<4>に係る、区画壁の前面に放熱管の延出部を覆う仕切板を設けることとは、構成上密接関連しているから、審決は相違点<4>の判断において、前面配設要件の容易推考性をもあわせて判断したものと解する余地がないとはいえない。

しかしながら、そのように解したとしても、以下に詳述するとおり、第一引用例記載のものに第四引用例記載のものを適用しても、本願第一発明の前面配設要件を満たす構成を得ることはできない。

すなわち、成立に争いない甲第六号証によれば、第一引用例には「壁間の断熱部を乾燥状態に保持し、冷蔵庫のドアの縁部の機能を維持することは、常に問題となつている。過去には、電気的抵抗回路によつて処理されていた。その電気的抵抗回路は、熱と寒気に交互に晒されることによつて生じる結露を除去していた。問題……発熱電気回路は多量の電気的エネルギーを消費する――このエネルギーを蓄えて節約することが目標であつた。問題の解決……通常はコンデンサで浪費している熱の一部を利用する。BUNDY TUBINGから二次的なバイパスを作り、古い電力浪費型の電気ヒータと交換する。」(右欄第一行ないし左欄第四行)との記載があることが認められるが、この記載からは、放熱管の熱をバイパスを使つて利用するという抽象的な技術的思想を把握し得るにとどまり、放熱管の熱を、どこで、どのように利用するかという具体的な技術的事項は明らかにならないから、ここに前面配設要件が開示されていないこと(この点は当事者間に争いがない。)はもとより、これを示唆する記載も存しないというべきである。

また、成立に争いない甲第九号証によれば、第四引用例記載の考案は、「前面開口縁に沿つてU字状溝を形成した外箱と前記U字状溝の後壁に当接するフランジを有し前記外箱との間に断熱材を充填する内箱と、前記フランジをU字状溝の後壁へ圧接する様前記U字状溝内にその全長に亘り挿入された弾性スペーサー及び前記内箱内を上下に区分する仕切壁とより構成すると共に前記仕切壁に対応する前記スペーサーの左右対向部の所要長さの切欠部を設け該切欠部に弾性部材を介して前記U字状溝の前壁との間に仕切壁の前面板の両端を挿入して固定したことを特徴とする二温度式冷蔵庫」(第二欄第三七行ないし第四欄第四行)を登録請求の範囲とするものであるが、その考案の詳細な説明中には、「19は前面板12の裏面へ貼着した露付き防止ヒーターである。」(第二欄第二〇行、第二一行)と記載されているから、右ヒーターは、放熱管とは別個の電気ヒーターであつて、しかもこれを前面板12、すなわち仕切板の前面飾り(第二欄第五行)の裏面へ貼着したものであることが認められ、本願第一発明のように高熱冷媒が流通する放熱管の一部を延出させ区画壁の前面に配設したものとは、構成も作用効果も全く異にすることが明らかである。

したがつて、たとえ区画壁の前面に結露防止用のヒーターを配設することが本件出願時に公知であつたとしても、第一引用例に記載されているチユーブの一部を本願第一発明のようにU字状に延出させてこれを区画壁の前面に配設するとの構成は、当業者においても容易に想到し得るものではないと認めるのが相当である。

3 以上のとおりであるから、審決は、本願第一発明の前面配設要件についての判断を誤つた結果、本願第一発明は、第一引用例ないし第四引用例の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤つて判断したものであるから、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 外箱とこの外箱に間隙を有して内箱を挿入し発泡用の治具内にて発泡断熱材を充填するものにおいて、前記外箱の前面開口縁に設けた二重フランジ内に冷却サイクルの高温冷媒を通す放熱管を伝熱的に配設し、前記外箱内に挿入された前記内箱の、前記内箱内を複数室に区画する区画壁が位置する一側壁の前端部より、前記放熱管の一部を略U字状に一体に延出させ、この放熱管の延出部を、前記区画壁の前面に配設すると共に前記区画壁の前面に、前記放熱管の延出部を覆う仕切板を設けたことを特徴とする冷蔵庫(以下「本願第一発明」という。)

2 冷却サイクルの高温冷媒を通し外箱の前面開口縁裏側に沿うように形成され、かつ庫内を複数室に区画する区画壁に相当する部分を延出させて延出部を形成した放熱管を、前記延出部が内外箱間の空間外に突出した状態で前記外箱の前面開口縁裏側に配置し、次に発泡用の治具内で前記内外箱間の空間内に断熱材を充填し、次に区画壁を内箱の側壁に形成した溝に設けて内箱内を複数に区画し、次に前記延出部を前記区画壁の前面に沿つて配設した後、前記区画壁の前面を覆う仕切板にて前記延出部の前面を覆うことを特徴とする冷蔵庫の製造方法(以下「本願第二発明」という。)

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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(以下省略)

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